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20数年前、
それまで百姓をやっておりました父が、急に他界し、道楽息子の私が田んぼを維持しなくてはならなくなりました。

それまで遊び呆けており、トラクターや田植えなどの農機具に触ったことさえありませんでした。

そんな私に急に百姓をやれ!と言われても…

当時は、「ここにある田んぼを全て売っぱらっちまおう!」なんて、密かに企てておりました。売れるまで、なんとかごまかしていればいいや!といやいやお米作りを始めました。

こんな私ですから、田んぼの世話などする訳がありません。

以前は父が苗から作っておりましたが、私は農協から出来た苗を購入し、そのままギクシャクしながら田植え機で田植えをしました。田植え機の扱いが下手な人が田植えをすると、植えた苗が恥ずかしいくらいに曲がっているんですよねえ。もう、ひどいもんでした。手伝ってくれていた母が、「世間にみせられんよ」と、嘆いていたのを覚えています。

こんな調子ですから、田植え後の管理、水の調整や、父がやっていた小まめな消毒作業などは一切やらず、ほったらかしの田んぼでした。収穫も通常の3分の1ほど。またまた母が嘆いておりました。

しかし、兼業農家ですから、生活はできるのです。

本当は、それがまた、いけなかったのでしょうが…。

あれほど
百姓が嫌だった私が、ひょんなことから田んぼつくりにどっぷりはまってしまったのは、ほったらかしにしていた田んぼに“メダカ”が泳いでいるのを見てからでした。それによくよく見ると、なんだか奇妙な生き物がおなかを上にして泳いでいるではありませんか。

「何じゃこりゃ?!」

その生き物を調べてみましたら、「ホウネンエビ」という太古から水田に生息している生き物で、その圃場の状態(環境)が良くならないと卵が孵化しない、珍しい生き物です。「へ〜、こんな生き物が出てきたんだ〜」などと、ぶつくさ言いながら田んぼを見回すと、なんと、たくさんのカエル達が泳いでいるではありませんか!さらに、よくよく見ると、メダカホウネンエビ、色々な種類のカエルドジョウアメンボウバッタ達、クモトンボ、などなど…

全く気付いていなかったのですが、私の田んぼは生き物達で一杯でした。そこで急に、よその田んぼが気になり、あちこちの田んぼを覗きに行ってみましたら、なんと!!!違うんです!よそ様の田んぼは、シーンとして静寂に包まれており、とても静かで、田んぼの水も、今にも飲めそうなほど綺麗に透き通っていて、あぜ道を歩いても、何の変化もない…。
ああぁ〜れぇ〜この田んぼって…息吹が感じない、生きているエネルギーが感じないなぁ…という思いでした。

改めて私の田んぼのあぜ道を歩いてみると、ビックリするくらいのアマガエルやツチガエル、殿様カエル等がバシャバシャ田んぼに飛び込みます。田んぼのあちこちから色々な生き物の歌声(鳴き声)が聞こえて、栄養豊富な濁った水には、小さな小さなミジンコ等の水生小動物や、それらを餌にするメダカやカエル、ドジョウ等の水生動物、さらにはその生き物を餌とするクモやバッタ等の水上動物、そしてそれらを餌とするトンボや蛇、さらにカモやサギなどの鳥たち…。
なんとここには生き物のみごとな生態系が形になっているではありませんか!

ほったらかしにしていたおかげで、土に残留していたそれまで使われてきた農薬や化学肥料が抜けて、自然に近い土の環境になっていたのでした。
「あぁ、こんな田んぼって、いいな!」と、素直に思い始め、
種子消毒や除草剤など、農薬も化学肥料も使わない、生き物がたくさん生息できる生物多様性を考えたお米作り、元気がいい田んぼつくりができるようになりました。

生物多様性の水田つくりに目覚めた私は、田んぼで環境が変えられないかと大それたことを思い始め、同じ意識の農家を増やしていきたく、近隣の農家や、これからの若い生産者に話しかけ、声をかけています。
小さな小さな点がたくさん集まると面になるように、そして大きな面となった時に、そこに自然が戻ってくるのではないか!と。
そんな田んぼで穫れたお米を安心して美味しく食べていただける事で、水田環境の回復ができ、維持していけるのだと思っています。

薬は使わず、天気を読み、風を読み、田んぼの土の状態を読み、
草の生え方を読み、苗の成長を読み、苗と田んぼの水の具合を読む。

以前では考えられないくらいに田んぼに向き合うようになりました。

それでも、わが娘は、
お父さんのは、ほったらかし農法だ!と言います。

以前は少し心が痛みましたが、今では、
それがいいんだよ!それでいいんだよ!そうでなくちゃあかんのよ!!!」と言えるようになりました。

これからの農業を「自然」とともにやっていきたい、
自然の中で育んだお米を作りたい。 生き物たちの息吹で賑やかな、
元気のいい田んぼ
を作りたい。

そんな田んぼで育ったお米は、きっと、美味しいに違いない!
そんな田んぼで育ったお米は、ただ美味しいだけでなく、心に残る「ごはん」になってくれる。

こんな思いがいっぱいです!

私よりも「美味しい」お米は、他にたぁ〜くさんあります。
私よりこだわってお米を作っておられる生産者もたくさんいらっしゃいます。

ただ、お米の生産者とそのお米を選ぶ人と、そのお米を食べて下さる方々が、一つのサークルになることによって初めて、農環境が改善され、環境が戻り、自然環境、農環境が維持されるのだと思います。

今後とも、よろしくお願い致します。

杉本一誌